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第1回 政権交代と公民連携

 イギリスでは、第3党の自由民主党の支持が急伸し、二大政権が揺らぎ、労働党が破れ、保守党と自由党による戦後初の連立政権として成立した。労働党政権で生じた財政赤字の削減が大きな課題となっている。イギリスでは1970年代まで「大きな政府」路線下で巨額の財政赤字が生じ経済も停滞した。そこで、1979年に成立した保守党のサッチャー政権が民営化を基本路線とする「小さな政府」に大きく舵をとり、財政再建を果たしている。1992年には同党のメイジャー政権はPFI(Private Finance Initiative)をスタートさせ、公共サービスの決定主体と供給主体を分離させ、公共サービスに民間の活力と資金を導入した。1997年以降のブレア率いる労働党に政権交代しても「大きな政府」に戻ることはしなかった。社会学者のアンソニー・ギデンズは市場の効率性と政府の公平性を補完する新たな方向を「大きな政府」でも「小さな政府」でもない「第三の道」と名付けた。
 日本では昨年の衆議院選挙で長らく続いた自民党から民主党に政権交代した。構造改革を唱え規制を緩和し郵政を民営化した小泉政権の後、自民党の支持は低迷し、民主党が大きく議席を伸ばし、民主党が単独過半数を制した上での連立政権に移行している。郵政のいわば再国営化や子ども手当の支給や高校授業料の無料化など一見すると、「大きな政府」への転向と理解できる。一方、事業仕分けや地域主権推進の動きなどは中央政府をより小さくしようとの意図にも受け止められる。日本においても新たな政府のあり方が問われているのではないだろうか。
 「第三の道」、あるいは新たな政府のあり方において、その理念と手法で鍵となるのが、公民連携・官民協働(PPP:Public Private Partnership、以下公民連携という)である。公民連携とは、「公共サービスの提供や地域経済の再生など何らかの政策目的を持つ事業が実施されるにあたって、官(地方自治体、国等)と民(民間企業、NPO、市民等)が目的決定、施設建設、所有、事業運営、資金調達など何らかの役割を分担して行うこと。その際、『リスクとリターンの設計』、『契約によるガバナンス』の2つの原則が行われること」と定義される(米国PPP協会など欧米のPPP関連機関が定義する共通要素をもとに東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻において定義したものである)。
 この定義の前半では、公共サービスや政策の実施における官と民の役割分担が述べられている。日本では従来、公共は官が担うものとされ、公共は官によって独占されてきた。官尊民卑という風潮、あるいは天下りといった表現にも民に対する官の優越的な地位が示唆されている。ところが、いわゆるお役所仕事と揶揄される行政の非効率と財政の逼迫から、従来の官と公共サービスのあり方をとらえ直す行政改革が大きな課題となってきた。そこで、民間でできるものは民間で、という官の役割を限定し行政をスリム化する一方、行政への民間企業の経営ノウハウの導入するNPM(New Public Management)の考え方が唱えられるようになった。公民連携にはこのような民間企業の活力と資金を積極的に評価し、行政に導入しようという視点もある。
 しかし、公民連携の目的は効率性だけではない。公共の担い手について問い直すことこそ、公民連携の原点にある。ジョン・ロックの信託統治説に拠るまでもなく、主権者は市民であることは言うまでもない。公共の担い手とは、同じく、本来的に市民であるということである。効率性やコストの観点ではなく、主体が市民、さらにはNPOや民間企業など多様な担い手が質の高い公共サービスを官と役割分担をしていかに実現していくか、ということが昨今の公民連携の趣旨ととらえるべきであろう。
 鳩山民主党政権でも新しい公共のありかたを考える円卓会議がはじまった。財源の問題で行政サービスが低下せざるを得ないので、市民やNPOに公共を担っていただく、という発想ではなく、公共の主体論と官と民の適切な役割分担のあり方が議論されるよう注視しなければならないであろう。
次回以降、公民連携の昨今の動向とトピックス、さらには公民連携による地域再生の事例を紹介していく。

株式会社公共ファイナンス研究所
代表取締役 阿部博人


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